東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)343号 判決
第一 本案前の主張について
訴が適法とされるために、訴状に少なくとも記載されなければならない「請求の原因」とは、請求の趣旨を補足し又は請求の趣旨と相まつて、請求の目的である権利又は法律関係を特定するのに必要な範囲の事項をいい、請求を理由あらしめるすべての事実を包含しなければならないものではないと解すべきである。そうすると、本件審決について、その取消を求める訴訟における請求は、審決の取消という形成を求める法的地位があるとの原告の権利主張であつて、法が特にその形成要件を列挙しているものではないから、請求を特定するためには、取消の対象である審決と、違法としてその審決の取消を求める旨趣とが明確にされることを要し、かつ、それで足りるというべきである。したがつて、訴状の請求の趣旨の項にこれらの点が記載されており、請求の原因の項には特段の記載がない場合であつても、訴状自体を適法ならしめるに足りるところの訴状に記載されるべき請求の趣旨及び原因としては、違法な欠缺があるものとすることはできない。
本件訴状によると、「請求の趣旨」として「昭和五〇年審判第二五〇八号事件について、特許庁が昭和五五年六月二五日にした審決を取消す、との判決を求める。」旨の記載がされている。それゆえ、訴状において、原告が取消を求める対象たる審決が特定表示され、かつ、その審決を違法として、その取消を求める旨趣を認めるに足りるから、訴状に記載されるべき「請求の趣旨及び原因」において欠けるところがないものというべく、本件の訴状がこの点で不適式であるということはできない。
そうすると、本件訴が、訴状の記載要件を欠き、法定の出訴期間内に提起されなかつた不適法なものであるとする被告の主張は、採用できず、他に、本件訴を不適法とすべき点はない。
よつて、被告の本案前の主張は採用できない。
第二 本案について
一 請求の原因一、二の事実及び同三のうち、引用各商標が本件商標の登録出願当時自動車及びその部品について著名であつたとの事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の有無について検討する。
成立に争いのない甲第四号証ないし第一五号証及び前記の当事者間に争いのない事実と弁論の全趣旨とによると、引用各商標は、原告会社の永年にわたるこれらを使用した自動車の販売、宣伝等の実績により、自動車とこれに関連する部品たる商品について、わが国において、本件商標の登録出願当時既に著名なものとして、需要者の間に広く知られていたことが認められる。
しかし、引用各商標の指定商品並びに右の「自動車及びその部品」たる商品と本件商標の指定商品である「養蜂用巣箱、理髪用椅子及び救命用具」とを対比するに、両商品のそれぞれの種類、形態、用途のほか、製造・販売・需給関係など、取引の実情に徴しても、両者の間には相互に関連性がないものというべく、両者は商標法上非類似の商品というほかはなく、また、引用各商標がその指定商品並びに自動車及びその部品以外の商品分野において著名であると認めるに足りる証拠はない。
そうすると、本件商標をその指定商品に使用したからといつて、その商品が自動車とその部品たる商品の分野において著名である原告会社の業務に係る商品であるかのように誤認混同を生ずるおそれがあるものとは認められない。そして、このように認定するについて妨げとなる特段の事情を見出すことができない。
なお、近時多くの企業が多角的経営を行う傾向にあり、そのために特定の企業の製造、販売する商品の分野が次第に拡大し多様化しようとする結果、有名ブラントが多種類の商品に使用されつゝあることは原告の指摘するとおりであろう。しかし、引用各商標が、自動車及びその部品以外の商品の分野特に本件商標の指定商品及びその類似商品の分野において著名であることを認めるに足りる証拠のない本件においては、右のようなことが直ちに前認定を左右するものでないことはいうまでもない。
以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由は、採用することができない。
三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却する。
〔編註その一〕 本件における請求原因は左のとおりである。
一 特許庁における手続の経緯
被告は、別紙(一)に記載のとおりの構成からなり、指定商品を第九類「養蜂用巣箱、理髪用椅子及び救命用具」とする登録第一〇四二五七〇号商標(昭和四二年一一月一六日商標登録出願、昭和四八年一一月一二日設定登録、以下「本件商標」という。)の商標権者である。
原告は、昭和五〇年三月二七日特許庁に対し、被告を被請求人として、本件商標の登録無効の審判を請求し、同庁昭和五〇年審判第二五〇八号事件として審理されたが、昭和五五年六月二五日「本件審判の請求は成りたたない。」との審決があり、右審決の謄本は、同年七月一四日原告に送達された(なお、出訴のための附加期間を三か月と定められた。)。
二 審決の理由の要点
本件商標の構成、指定商品、登録出願の日、設定登録の日は、前項に記載のとおりである。
これに対し、別紙(二)ないし(一〇)に記載のとおりの構成からなり、それぞれその登録番号、指定商品、登録出願の日、設定登録の日及び存続期間更新登録の日を各別紙の末尾に記載するとおりの登録商標(以下これらの商標を合わせて「引用各商標」という。)が存在し、これら引用各商標の商標権者は、請求人(原告)である。
ところで、請求人は、本件商標は、商標法第四条第一項第一五号の規定に違反して登録されたものであるから、同法第四六条第一項の規定により、その登録は無効とされるべきである旨主張するので、この点について判断する。
本件商標の指定商品は、前記のとおりであるのに対し、引用各商標の指定商品は、前述のとおり旧第七類、旧第一七類、旧第一八類、旧第一九類、旧第二〇類、旧第六九類の商品であつて、その用途、販売場所等を異にし、本件商標の指定商品とは類似しない。
また、請求人がその商標権者である引用各商標に係る「丸に三叉星」の商標が、たとえ商品「自動車及びその部品」に使用されて取引者、需要者に広く認識されており、かつ、多数の類別の商品に登録されていたとしても、いまだ、商品「自動車及びその部品」以外の商品についてまでも、広く認識されているものとは認め難い。
そして、本件商標の指定商品は、いずれも、特殊な用途にのみ使用される商品であつて、「自動車及びその部品」とは何らの共通点を有しないから、本件商標をその指定商品に使用しても、請求人(原告)の業務に係る商品とその出所について混同を生ずるおそれはない。
よつて、本件商標を商標法第四条第一項第一五号の規定に違反して登録されたものとすることはできない。
〔編註その二〕本件に関する商標は左のとおりである。
別紙(一)
<省略>
別紙(二)
<省略>
登録番号 第五八一〇八一号
指定商品 旧第一七類「他類に属しない機械器具及びその各部並びに各種の調帯ホース及びパツキング」
登録出願の日 昭和三二年七月三一日
登録の日 同三六年一〇月二三日